ペットテック市場の動向と規模

世界CAGR13〜20%成長、国内は2030年に73.8%増へ

世界のペットテック市場の現況

ペットテックとは、IoTデバイス、人工知能(AI)、ビッグデータ解析などのテクノロジーを活用して、ペットの健康管理・見守り・飼育支援を行う製品・サービスの総称です。世界のペットテック市場は現在、産業全体として極めて高い成長局面にあります。調査会社によって市場の定義や集計範囲は異なるものの、主要な市場調査レポートの多くが年平均成長率(CAGR)13〜20%という水準を示しており、2020年代半ばの市場規模はおおむね100億〜150億ドル、2030年代前半には300億ドル規模に達するとの予測が主流です。テクノロジー産業全体を見渡しても、二桁成長を安定的に持続すると見込まれる領域は限られており、ペットテックは投資家・事業会社の双方から注目される成長市場となっています。

地域別に見ると、最大市場は北米です。米国ではペット関連支出そのものが年間1,500億ドルを超える規模に達しており、スマート首輪やGPSトラッカー、ペットカメラといったデバイスの普及が先行しています。一方、成長率で最も高い伸びが見込まれているのがアジア太平洋地域です。中国や韓国では若年層を中心にペット飼育が急増し、日本では後述するように「ペットの家族化」と「ペットの高齢化」という2つの構造変化がテック需要を押し上げています。

成長の背景として重要なのは、ペットテックが単発のデバイス販売にとどまらず、継続課金型のデータサービスへと事業モデルを進化させている点です。首輪型デバイスで取得したバイタルデータを健康管理アプリで解析し、異常があれば獣医療やペット保険へ接続する。この「デバイス+データ+サービス」の三層構造が業界標準になりつつあり、顧客生涯価値(LTV)の高いビジネスとして成立し始めています。

コロナ禍を経た市場の変質

市場の転機となったのは、2020年からのコロナ禍です。在宅時間の増加を背景に世界的なペットブームが起こり、新規飼育世帯が急増しました。同時に、飼い主がペットと過ごす時間が長くなったことで健康状態への関心が高まり、見守りカメラやウェアラブルの購入が一気に進みました。ブーム自体は落ち着いたものの、このとき形成された「デジタルでペットをケアする」という行動様式は定着し、コロナ後もペットテック支出は減速していません。一過性の特需ではなく、消費行動の構造変化として市場の土台になった点が重要です。投資マネーもこの変化を追認しており、ペットテック専門のベンチャーキャピタルファンドが組成されるなど、資金供給面でも産業としての基盤が整いつつあります。

国内市場の規模と2030年予測

国内に目を向けると、ペット関連の総市場(フード・用品・生体・サービスを含む)は約1兆8,000億〜1兆9,000億円規模で安定的に推移しています。犬・猫の飼育頭数は合計約1,600万頭と横ばい傾向にあるものの、1頭あたりの支出額が年々増加しており、市場は「量」ではなく「質」で成長するフェーズに入りました。その中で最も高い伸びを示しているのがペットテック領域であり、複数の調査会社が国内ペットテック市場は2030年に2024年比で73.8%増に達するとの予測を公表しています。

100 150 200 100 120 145 173.8 2024年 2026年 2028年 2030年 国内ペットテック市場の成長イメージ(2024年=100とした指数)

図1: 国内ペットテック市場の成長予測イメージ。2030年に2024年比73.8%増との調査予測をもとに指数化(中間年は編集部による補間)。

国内市場の特徴は、見守りカメラ・スマートトイレ・自動給餌器といった「留守番支援・健康見守り系」のデバイスが成長の中心にあることです。共働き世帯や単身世帯の増加により、日中ペットだけで留守番をさせる家庭が増え、外出先からスマートフォンで様子を確認したいというニーズが拡大しました。加えて、猫の飼育頭数が犬を上回って推移していることも、トイレ型センサーなど猫向けプロダクトの成長を後押ししています。デバイスの世帯普及率はまだ一桁台にとどまるとみられ、伸びしろの大きさこそが国内市場の最大の魅力といえます。

支出構造の変化も見逃せません。ペット関連支出のうち、フード・用品といった「モノ」への支出が伸び悩む一方、医療・保険・検査・サービスといった「ヘルスケア」への支出は右肩上がりを続けています。1頭あたり年間支出額は犬で30万円台、猫で10万円台後半と推計され、いずれも上昇傾向にあります。特にシニア期の医療・ケア費用が支出全体を押し上げており、ペットテックの主要ターゲットが「若く元気なペットの便利グッズ」から「シニアペットの健康管理」へ移りつつあることが、国内市場の質的な変化として指摘できます。

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市場拡大を支える成長ドライバー

ペットテック市場の成長を支える第一のドライバーは、ペットの家族化(ペット・ヒューマナイゼーション)です。ペットを「飼う」対象から「共に暮らす家族」として捉える価値観が定着し、人間と同水準の医療・食事・快適性を求める飼い主が増えました。この価値観の変化は支出構造に直結しており、フードの高付加価値化、予防医療への支出、保険加入率の上昇といった形で市場全体を底上げしています。

第二のドライバーはペット自身の高齢化です。獣医療の進歩と食事の質の向上により、犬の平均寿命は約14.8歳、猫は約15.9歳まで伸びました。人間と同様に、寿命の伸長はシニア期の長期化を意味し、慢性疾患の管理、介護、リハビリ、看取りといった「長寿ケア」需要を生み出しています。日々のバイタルデータから疾患の予兆を捉えるウェアラブルや、通院負担を減らす遠隔診療は、この高齢化ニーズと直接結びついたソリューションです。

第三に、飼い主側のライフスタイル変化が挙げられます。共働き世帯・単身世帯の増加は見守り需要を、都市部の集合住宅での飼育増加は室内飼育向けデバイス需要を押し上げました。さらに、スマートフォンの完全普及とIoTセンサー・通信モジュールの低価格化という供給側の技術条件が整ったことで、かつては高価だったペット向けIoT機器が1〜3万円台の価格帯に降りてきており、一般家庭への普及の素地が固まっています。

これらのドライバーは相互に増幅し合う関係にあります。家族化が医療支出を増やし、医療の充実が寿命を延ばし、高齢化がさらなるケア需要を生む。この循環構造こそが、ペットテック市場が景気変動に対して比較的強い理由であり、「一度立ち上がったら止まりにくい市場」と評価される根拠になっています。

  1. 価値観の変化ペットの家族化により医療・予防への支出が増加
  2. ペットの高齢化平均寿命の伸長でシニアケア需要が拡大
  3. 世帯構造の変化共働き・単身世帯の増加で見守り需要が増大
  4. 技術の低価格化センサー・通信費の低下で普及価格帯を実現

セグメント別に見る市場動向

ペットテック市場は大きく5つのセグメントに整理できます。各セグメントの現況と成長性は下表のとおりです。デバイス系は市場の入口として最も規模が大きい一方、今後の利益成長はデータを活用したヘルスケアサービスや保険との連携領域に移っていくとみられています。

セグメント 主な製品・サービス 現況と成長性
スマートデバイス スマート首輪、見守りカメラ、スマートトイレ、自動給餌器 市場の中核。国内で最も普及が進む領域で、留守番支援ニーズが成長をけん引
ヘルスケア・診断 AI画像診断支援、行動解析、腸内フローラ・遺伝子検査 予防医療シフトの受け皿。検査データの蓄積が参入障壁を形成
ペット保険 インシュアテック型保険、窓口精算、予防型保険 国内加入率は2割弱まで上昇。データ連携による商品進化が進行中
獣医療DX クラウド電子カルテ、予約システム、遠隔診療 獣医療の人手不足を背景に導入が加速。規制動向が普及速度を左右
フード・サプリ パーソナライズドフードD2C、長寿サプリメント 健康データとの連携で「食のパーソナライズ化」が進む注目領域

セグメント間の境界は年々曖昧になっています。たとえばスマートトイレで取得した排泄データを保険会社が健康増進プログラムに活用する、首輪型デバイスの活動量データをフードメーカーが給餌量の最適化に使うといったクロスセグメントのデータ連携が始まっており、業界構造は「単品売り切り」から「データを軸としたエコシステム競争」へ移行しつつあります。

市場の課題とリスク

高成長が見込まれる一方で、参入を検討する事業者が把握しておくべき課題も明確です。第一に価格感応度の高さです。ペット関連支出は増加傾向にあるものの、デバイスやサブスクリプションの解約率は依然として事業者の収益性を左右します。「あれば便利」ではなく「健康・安心に直結する」価値提案ができるかが継続率の分水嶺となっています。第二にデータ規格の分断です。デバイスごとにデータ形式が異なり、獣医療機関や保険会社との連携には個別開発が必要になるケースが多く、業界標準の不在がエコシステム形成の足かせとなっています。

第三に規制と制度の変化です。遠隔診療における診察の位置づけ、動物用医薬品の承認制度、保険商品の認可など、獣医療・保険に近づくほど制度対応のコストが増します。逆にいえば、規制対応力と獣医療機関とのネットワークを持つ事業者にとっては参入障壁として機能します。最後に、国内特有のリスクとして飼育頭数の頭打ちがあります。市場成長は1頭あたり支出の増加に依存しているため、可処分所得の動向や飼育コストの上昇が新規飼育のハードルとなる点には注意が必要です。それでもなお、ペットの家族化と高齢化という構造変化は不可逆であり、中期的な成長シナリオを揺るがすものではないというのが業界の共通認識です。

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